作曲者: | 中橋愛生 |
作曲年: | 2008年 |
演奏時間: | 08分 |
編成: | |
初演: |
2008年5月27日 井田康男 指揮 陸上自衛隊中部方面音楽隊 兵庫県立芸術文化センター・大ホール 陸上自衛隊中部方面音楽隊・第40回定期演奏会 |
出版社: | ブレーン |
委嘱者: | 陸上自衛隊中部方面音楽隊 |
解説: |
陸上自衛隊中部方面音楽隊の委嘱作品。 一つのコミュニティに生きる人たちには、価値観や思考法などにおいて何かしら共通する観念が存在する。それは日常では意識しないことだが、確実に人の潜在意識の内にある、いわば《閾下》の存在だ。日本において、それは《桜の樹》の在り方だろう。春の訪れとともに訪れる華やかさと、儚さ。その一瞬を見届けるまでの一年、人々はかの樹に何を見るのか。 日本人の内に古今を問わずに根ざしている《閾下の桜樹》。それは我々の美意識に他ならない。どのような情景においても、桜樹は常に、そこにある。(以上、プログラムノートより抜粋) この曲では、全ての素材が日本古謡「さくら」を用いて創られているが、旋法的反行形や逆行形なども多く、更にヘテロフォニックなエコーを伴って奏されることがほとんどであるので、それはあまり認識できない。しかし、聴いている人には無意識のうちに「桜」の姿が感じられるはずだ。 構成としては「序破急」の三部から成っている。 序では、「さくら」の旋律を小節毎に分断し、そこに含まれている音を同時に鳴らすことにより、面的な響きの固まりとして使う。また、その中から徐々に線としての「さくら」が浮き沈みしていく。いわば、混沌の内からの自我の誕生。 破では、「さくら」の旋律の旋法的反行形や逆行形、反逆行形を小さな単位で組み合わせることによって新しく作られた民謡のような旋律線を、様々な楽器に歌い継いでいく線的な部分。いわば、受け継がれゆく精神。 急では、「さくら」の断片はオスティナートの律動となり、それを背景として「破」の民謡的旋律と、曲頭に現れた独自旋律(「さくら」特有の旋法的順次進行に従っている)が奏される。いわば、恒久的存続。 委嘱団体である陸上自衛隊中部方面音楽隊は、兵庫県伊丹市に本拠地があり、東海・北陸・近畿・中国・四国の2府19県を管轄している。吉野山の千本桜を始めとした桜の名所も多く、各駐屯地には桜並木もあり、自衛隊の紋も桜を象っていることから、「桜を主題とし、武士道に代表されるような日本人の特質を描いたものにしてほしい」という要望が委嘱元よりあった。 なかなかに難しい要望であり、さらにいわゆる「分かりやすい曲」であることも求められたため、色々と悩んだが、「さくら」変奏曲とすることで構想がまとまっていった。 この曲もやはり「作曲にあたっての新・編成組織方法の提案」に準拠した方法でパート割がなされており、「Pic(1:Fl持替)、Fl(2)、Ob(1)、Bsn(1)、C-Bsn(1)、Es Cl(1)、Cl(6)、B-Cl(1)、B♭ C-bassCl(1)、S-Sax(1)、A-Sax(1)、T-Sax(1)、Bar-Sax(1)、Trp(6)、F-Hrn(4)、 Trb(4)、Euph(2)、Tuba(2)、Str-B(1)、Perc(5)、Pf(1)」《()内は必要最低限人数。C-BsnとB♭ C-bassClはどちらかがあればよい》という編成で書かれている。 完成は2008年5月9日。初演は2008年5月27日に兵庫県立芸術文化センター・大ホールで行われた「陸上自衛隊中部方面音楽隊・第40回定期演奏会」にて、井田康男指揮の同隊による。演奏時間は約8分。 なお、初演時は副題を「吹奏楽のための前奏曲」としていたが、曲の内容から判断し、「前奏曲」を削除した。 |