作曲者: | 伊藤康英 |
作曲年: | 2006年 |
演奏時間: | 10分 |
編成: | |
初演: |
指揮 |
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委嘱者: | |
解説: |
楽語に用いられる音楽用語をあれやこれや眺めるのが好きだ。たとえば、フェルマータ(fermata)というのはバス停のことでもあり、クレッシェンド(crescendo)というのは、フランス語のクロワッサン(croissant)と同じ意味だ、とか。アダージョ(Adagio)というのは、通常ゆっくりとしたテンポで演奏することや、緩徐楽章(ゆっくりとした楽章)を意味する。しかしこのイタリア語の言葉の語源を辿ると、ラテン語のagioに行き着く。これは、平安、 安らぎ、穏やかさ、といった意味だ。どれにadという前置詞が付いてadagioとなったらしい。前置詞adは、英語に置き換えるとtoとかtoward、つまり、「~の方向へ」という意味がある。たとえば「アドリブ」という言葉はラテン語であり、ad libitumつまり、「自由の方向へ」というニュアンスを持った言葉である(…などと書いていると、なんだか外国語の授業のようですね)。ですからこの曲の題名adagioは、強いて訳すと「安らぎの方向へ」あるいは「toward the peace」(平和に向かって)ということになろうか。 穏やかならぬ事件があまりにも相次ぐ今の時代への、私からのささやかなメッセージである。 (初演プログラム/伊藤康英) |