中橋愛生 / 揺れる影の歌 〜吹奏楽のための


Nakahashi, Yoshio /


吹奏楽コンクールでの演奏記録

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作品情報

作曲者: 中橋愛生
作曲年: 2009年
演奏時間: 6分30秒
編成:
初演: 2009年07月30日 段林知子 指揮 宍粟市立一宮北中学校吹奏楽部


出版社:
委嘱者: 兵庫県宍粟市立一宮北中学校吹奏楽部
解説:  兵庫県宍粟市立一宮北中学校吹奏楽部の委嘱作品。
 編成は、「Fl(1)、Cl(2)、A-Sax(2)、T-Sax、Trp(1)、F-Hrn(1)、Trb(1)、 Euph(1)、Tuba(1)、Perc(2)」《( )内はパート数》で、1パート1人の13人で演奏されることを想定している。また、「A-Sax 2、Trp、Euph」が1年生、「Fl、Cl 2、A-Sax 1、F-Hrn、Trb」が2年生、「Cl 1、T-Sax、Tuba、Perc 1と2」が3年生であることを前提としており、この「学年というグループ」単位でユニゾンとなったり、「1年生は1拍子、2年生は2拍子、3年生は3拍子」であったり、学年間の旋律の受け渡しがあったり、と、学年が曲の内容に色濃く反映されている。そのため、初演時は学年ごとにグループとした特殊な並びを行なった。
 吹奏楽コンクール小編成部門の自由曲として委嘱されたものだが、その条件は「アンチ・コンクール的な内容」で「楽器を始めて数ヶ月の中学生でも演奏出来る《現代音楽》」というもの。また、小編成であるので「小編成でも出来る」ではなく「小編成だからこその曲」にしたいと思った。これらの条件を勘案した結果として出来たのがこの作品である。
 まず「アンチ・コンクール的な内容」だが、まぁ、ノビノビと自由に書けば敢えて「アンチ」を打ち出さなくても「コンクールというものに捉われない内容」になるだろうから、さして気にならない。フォルテで終わりたかったらフォルテで終わればよいだけの話(結局、この曲はピアノで終わるのだけど)。それよりはその次の「現代的な内容」と併せた場合に思う所があった。というのは、「吹奏楽で演奏される現代作品」というものの傾向が著しく偏っているように常々感じていたからだ(コンクール向きな現代作品だけをやっている、という方が適切か)。現代音楽と言っても、色々なタイプのものがある。なので、あまり吹奏楽では試みられてない(けれど、現代音楽の世界ではスタンダードな)スタイルの作品にしようと考えた。とかく「現代作品をやる」ということが、「基礎的な部分の未熟さを隠す」ための隠れ蓑として使われることは少なくない。そもそも「コンクールで(その種の)現代作品をやる」ということが非常に「コンクール的」なのであるから、「アンチ・コンクール的な内容」と頼まれた時点で、「リズム感が希薄で、ピッチのコントロールが重要で、歌心が必要」な曲となることは必然だったと言える。
 「楽器を始めて数ヶ月~」は、中学生用の委嘱であるのだから当然とも言える。コンクールの自由曲というのは、往々にして「楽器を持って一番始めに本格的に練習する曲」となる。その初歩の段階で「○○とはこういうものだ」という先入観を持たないようになってくれれば、と考えた。「音楽とはこういうものだ」というのも勿論だし、「この音を出すにはこの指遣い」というような《ピアノ的な作音に対する考え方》も持って欲しくない。管楽器の音楽で一番面白い(そして難しい)のは、「作音」の多様性にあると思っている。そのことを考えてもらうため、この曲では、様々な音色や微細なピッチの揺れなどの、1つのピッチに対する多様なアプローチが要求される。
 「小編成だからこそ」というのは、私にとってこれからも追求していきたいテーマ。これまでに私が書いた作品は(それを頼まれるのが多いので図らずも)大編成用が多かったのだが、それを続けていくと「小編成でなければ出来ない表現」にも思い当たる。そのうちの1つが「繊細なピッチの差異を用いる表現」である。「弦楽四重奏の1stヴァイオリン」と「オーケストラの1stヴァイオリン」の音色が全く違うのは、後者が微細なピッチのズレを包括したものであるから。当然、微分音を出した場合、前者の方が差異が明確である。この違いは吹奏楽の場合には、そのまま小編成と大編成の関係に換言出来る。この曲は、この「揺れるピッチ」に拘った表現に徹した(小編成には他にも色々な可能性を見ているが、それは他の機会があれば)。
 曲は、基本的に全員で1本の「歌」を歌う。これがヘテロフォニックにずれていき、やがて影を生じ、それが引き延ばされて音響体を形成する。その過程で、それぞれの「影」は微細なピッチのズレを伴う「揺れ」を生んでいく。「歌」の発生点は「Es - H - A - D - E - Es」という動きとなっているが、これは「Shades(=影)」から採っている。
 完成は2009年5月14日。演奏時間は約6分20秒。初演は、2009年7月30日に姫路市文化センター大ホールで行なわれた兵庫県西播地区吹奏楽コンクールにて、段林知子 指揮の宍粟市立一宮北中学校吹奏楽部による。同コンクールで地区代表に選出され、県大会で演奏する予定だったが、県大会の前夜に台風が直撃、記録的な豪雨により一宮からの道路が分断されたために会場に向かうことが出来ず、残念ながら出場を断念せざるをえなかった。

(作曲者より許可を得て転載)

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