中橋愛生 / 科戸の鵲巣 ~吹奏楽のための祝典序曲


Nakahashi, Yoshio / Blessed Promising Future Festal Overture for Symphonic Band


吹奏楽コンクールでの演奏記録

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作品情報

作曲者: 中橋愛生
作曲年: 2004年
演奏時間: 10分
編成:
初演: 2008年07月22日 野中図洋和 指揮 陸上自衛隊中央音楽隊
練馬文化センター
陸上自衛隊中央音楽隊第61回定例演奏会
出版社: ブレーン
委嘱者: 陸上自衛隊中央音楽隊
解説: 防衛庁設立五十周年記念として陸上自衛隊中央音楽隊の委嘱。

「科戸の風」(しなとのかぜ)という言葉がある。これは「一切の穢れを吹き去ってくれる風」のこと(「日本書紀」での風の神である「級長戸辺命」(しなとべのみこと)が由来)。「科戸」は「し」が「風」、「な」が助詞の「の」、「と」が「場所」なので、「風の起こる場所」の意。 また、「鵲巣(じゃくそう)は風の起こる所を知る」という諺があり、カササギがその年の風の具合を予見して巣を作る本能があると言われていることから「未来を予知する能力」の例えを意味しているそうだ。 この二つの言葉を合成し、祝福された未来へ向かう序曲とした。また、この二つの言葉に共通項の「風の起こる場所」というのが吹奏楽団を連想させるのもひっかけてある。

「過去と現在」、あるいは「現在と未来」というような「異なった時空」を様々な手法で併置させており、滲むような「時のラスタースクロール」を感じられるように作曲した。要所要所で聞かれるグリッサンドを伴ったクラリネットの鋭い響きはカササギの鳴き声(あまり美しい声ではないのだ)の模倣である。

調性的な響きや全音音階を使用した作品で、私の作品としては異色。核となる「旋律」もあるし、全体的に「聞きやすい」。ただし、オーケストレーションを始めとして「背景として」かなり実験的なことも行っている。委嘱時の要望として「華やかなもの」「二部構成で、前半だけ独立させてファンファーレとして演奏できれば、なおいい」というのがあった。そのため、曲の冒頭部と終結部を繋げると3分くらいのファンファーレになるように作ってある。

この曲を作っている間、常に念頭にあったことは「とにかく大編成の特性を活かす」こと。それは、委嘱者である陸上自衛隊中央音楽隊の野中図洋和隊長の言葉に起因する。私がまだ大学院生だったころ、始めて陸中音にお邪魔させて頂いたときに「我々は大編成を持つプロであり、我々にしかできないことに誇りをもっている」というようなことを仰っていたことが印象的だった。それから間もなく陸中音からはスッペの編曲委嘱のお話も頂き、そのときにも「大編成ができること」を常に意識した。考えてみれば、一介の世間知らずの学生にこのような機会を与えて下さったことは、一般的に考えればありえないことではなかろうか。人選の経緯がどうあったのかは私の知るところではないのだけれども、最終的に決定するのは隊長であろうことは疑いないだろう。いわば隊長は私を拾って下さった「恩人」なのである。その隊長の最後の定例演奏会での委嘱作品として、この曲は初演される。曲の終盤、頭に浮かんだ隊長の笑顔に、思わず涙しながら作曲を行った。それまでに断片として隠されていた動機が全面に出る、クライマックスにおける旋律は、まさにその部分である。

編成はとにかく大きい。「遮光の反映」と同様、「作曲にあたっての新・編成組織方法の提案」に準拠した方法でパート割がなされている。編成は「Pic(1)、Fl(3)、Ob(2)、Bsn(1)、C-bsn(1)、Es Cl(1)、Cl(8)、B-Cl(1)、Es C-altCl(1)、S-Sax(1)、A-Sax(2)、T-Sax(1)、Bar-Sax(1)、Trp(8)、F-Hrn(6)、Trb(6)、 Euph(2)、Tuba(2)、Str-B(1)、Perc(6)」《()内は必要最低限人数》。技巧的にもかなり難しく、中間部には様々なソロが絡み合う室内楽的な部分も存在する。

完成は2004年10月15日。初演は2004年12月16日に練馬文化センターで行わた陸上自衛隊中央音楽隊第61回定例演奏会において、野中図洋和指揮の陸上自衛隊中央音楽隊による。演奏時間は10分。

余談ながら、カササギは私の故郷である佐賀県の県鳥だったり。また、偶然にも2004年12月に、私の音楽を小学生の頃よりずっと見続けてきてくれている大切な人物が結婚することになった。この曲は、私のお世話になった様々な人への感謝を込めた祝典曲となっている。

2006年3月5日に行なわれた「第九回 響宴」において神奈川大学吹奏楽部(指揮:小澤俊朗)によって再演され、ライヴ録音のCDがブレーンから発売されている。楽譜はブレーンよりレンタル。

また、ミュゼ・ダール吹奏楽団の依頼により、コンクールの長さに合わせるために7分にカットした「コンクール・エディション」を2006年に作成している。この「コンクール・エディション」の楽譜もブレーンよりレンタルされている。2つの版の違い、および2006年の全日本吹奏楽コンクールで演奏されたカットについて、などの情報はこちらを参照のこと。

なお、全曲版ではないものを演奏する際には「コンクール・エディション」と明記することをお願いします。また、「全曲版」「コンクール・エディション」の合成により独自の版を作成することも許可していますが、その場合にも「ディレクターズ・カット」などのように何らかの方法で「全曲版ではない」ことを明記するようにお願いします。

音源の一部がこちらのサイトでダウンロードできます。

主な音源

    響宴 IX/ (BRAIN/BOCD-7476/7)
    指揮: 小澤俊朗 演奏: 神奈川大学吹奏楽部

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