中橋愛生 / 浅葱の空 ~吹奏楽による憧憬的音詩


Nakahashi, Yoshio / Asagi no Sol-La (Pale Blue Sky to the Sea) Longing Tone Poem by Symphonic Band


吹奏楽コンクールでの演奏記録

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作品情報

作曲者: 中橋愛生
作曲年: 2007年
演奏時間: 8分
編成:
初演: 2007年05月19日 野上博幸 指揮 ミュゼ・ダール吹奏楽団
杉並公会堂
ミュゼ・ダール吹奏楽団第10回定期演奏会
出版社: ブレーン
委嘱者: ミュゼ・ダール吹奏楽団
解説: 杉みき子の短編集「小さな町の風景」の中に「あの坂をのぼれば」という話がある。幾度となく登っては下る坂道を、海へと目指して歩き続ける少年。執拗に繰り返される道程のうちに、様々な思いが去来し、ついにはくじけそうにもなる。だが、あるとき聞こえた海鳥の声により、少年は坂の上の空が海へと続く浅葱色となっていることに気付く。言うまでもなく、この話における「海」とは必ずしも本物の「海」であることが重要なのではない。誰しもがそれぞれの「海」を持っており、そこへ向かって歩み続ける。変わらぬように見える風景でも、確実に「海」は近づいているのだ。曲は一種のパッサカリア。杉の短編で繰り返される特徴的な「あの坂をのぼれば海が見える」という言葉と同じく、6回繰り返される主題。その上に雲とも言うべき音響層が被さっていくうちに、様々な断片が鳴らされる。坂の頂点に連なる空。頂からの眼下にあるのは海ではなく、更なる道程。だが、繰り返されるうちにやがて空は拓き、明るい響きへと徐々に変質していく。ついに海へと達したとき、「海」は常に自らの内にこそあったのだということに、少年は気付くだろう。(以上、プログラムノートより)


ミュゼ・ダール吹奏楽団の第10回という記念の演奏会に際し、彼らのこの先にあるであろう「海」を願って書かれた。日本の吹奏楽で最も問題視されるべきことに、「音色に対する意識の欠如」ということが挙げられる。それは「どんなバンドでも同じような結果になるように」といいう大義名分のもと、塗りたくったかのような大tuttiが続く既存のレパートリーを演奏し続けたことに起因するのかもしれないが、ともかく日本の吹奏楽の演奏には「音色に対する意識」というのが希薄である。そこで、「ただ楽譜通りに演奏していては曲にならない曲」を書こうと思い立った。今回はその導入ということもあり、「段々と明るくなる音色」という分かりやすい構図。その方法論についてはこちらのサイトの本作のページの最後の方にも書いてみた。結果、「技術的にはそれほど難しくないが、音楽的には(こうした意識を持つ経験が浅いバンドには)非常に難しい曲」が出来上がったと思う。


個人的には、自分の作曲法で違うやり方を試してみる、という一つの探求の作品でもあった。これまで書いてきた「音響的作品」の書法と、かつて学んだ音列操作の手法(セリー技法)との間に接点を見いだせないか、と試みた。同時に、打楽器や特殊奏法に頼らず、動機の操作という基本に一度立ち戻って考えてみたい、ということも思っていた。なかなか苦しい作曲だったのだが、今にして思えば「坂を登っていた」のは私自身だったのかもしれない。どのようにしてこの曲が構築されているかはこちらのサイトを参照のこと。


この曲もやはり「作曲にあたっての新・編成組織方法の提案」に準拠した方法でパート割がなされているが、他の作品に比べると編成は比較的小さく、「Pic(1)、Fl(3)、Ob(1)、Bsn(1)、Es Cl(1)、Cl(6)、B-Cl(2)、S-Sax(1)、A-Sax(2)、T-Sax(1)、Bar-Sax(1)、Trp(4)、F- Hrn(4)、Trb(4)、Euph(2)、Tuba(2)、Str-B(1)、Perc(5)」《( )内は必要最低限人数》となっている。


完成は2007年4月27日。初演は2007年5月19日に杉並公会堂で行われた「ミュゼ・ダール吹奏楽団・第10回定期演奏会」にて、野上博幸指揮の同団による。演奏時間は約8分。初演後、7月11日に齊藤一郎指揮の東京佼成ウインドオーケストラによってレコーディングがなされており、2007年冬にEMIミュージック・ジャパンよりCDが発売予定となっている。


(作曲者より許可を得て転載)

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